・・・ こうして二人が海岸の石原の上に立っていると、一艘の舟がすぐ足もとに来て着きましたが、中には一人も乗り手がありませんでした。 でおかあさまは子どもを連れてそれに乗りました。船はすぐ方向をかえて、そこをはなれてしまいました。 墓場・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・馬は総身に汗をかいて、白い泡を吹いているに、乗手は鞭を鳴らして口笛をふく。戦国のならい、ウィリアムは馬の背で人と成ったのである。 去年の春の頃から白城の刎橋の上に、暁方の武者の影が見えなくなった。夕暮の蹄の音も野に逼る黒きものの裏に吸い・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫