出典:青空文庫
・・・「医者のあの口振りじゃ、九分九厘むつかしそうなんだが……全くそんなんだろうか」と情なさそうに独言ちて、お光は目を拭った。 ところへ、「郵便!」と言う声が店に聞えて立ったが、自分の泣き顔に気がついて出るのはためらった。「吉田さん、・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・法華信者が偏頗心で法華に執着する熱心、碁客が碁に対する凝り方、那様のと同様で、自分の存在は九分九厘は遊んでいるのさ。真面目と云うならば、今迄の文学を破壊する心が、一度はどうしても出て来なくちゃならん。 だから私の態度は……私は到底文学者・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・この間泉川検事は、君は九分九厘不利だという言葉を執ようにくりかえした。治安維持法時代から特高として働いてきたツゲ事務官は、尾崎秀実の例をひいて「彼は遂に刑場の露と消えた。彼は真実に生きていた。最後まで真実を主張して自分の真理に生きた。そうし・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・けれども、今日の社会の現実は、そのような人間的調和をもった社会生活の中で、各人が持って生れたものを素直に誤らずのばしてゆく可能を九分九厘まで奪っている実際である。社会の中枢で立派に働くことと、真理を愛し、真実な生活を営むこととの間に日夜の相・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」