-
・・・三重県北牟婁郡九鬼港、気仙仁一。追白。私は刺青をもって居ります。先生の小説に出て来る模様と同一の図柄にいたしました。背中一ぱいに青い波がゆれて、まっかな薔薇の大輪を、鯖に似て喙の尖った細長い魚が、四匹、花びらにおのが胴体をこすりつけて遊んで・・・
太宰治
「虚構の春」
-
・・・ 九鬼周造氏に『いきの構造』という本がある。日本の芸術の伝統における粋の諸要素を、幾何学風な図解まで添えて説明しようと試みられているのであるが、その科学的分析の努力を氏自身が結論において謂わば自ら放棄しているところは興味がある。我から粋・・・
宮本百合子
「文学上の復古的提唱に対して」