・・・ ヨーロッパ大戦後の、万人の福利を希うデモクラシーの思想につれて、民衆の芸術を求める機運が起って『種蒔く人』が日本文学の歴史の上に一つの黎明を告げながら発刊されたのは大正十一年であった。ロマンティックな傾向に立って文学的歩み出しをしてい・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・――純白な紙、やさしい点線のケイの中に何を書かせようと希うのか深みゆく思い、快よき智の膨張私は 新らしい仕事にかかる前愉しい 心ときめく醗酵の時にある。一旦 心の扉が開いたら此上に私の創る世界が湧上ろ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・ けれども、文学の作品とすると、もうすこし主人公の、よりよく生きたいと希う人間らしい心もちそのものの中からすらりと書かれる方がよいと思った。たとえば教員養成所というところが共産主義という言葉ばかりで脅えている。その醜さは描かれているが、・・・ 宮本百合子 「選評」
・・・よしんば働く人がブルジョア的な哲学や観念、自意識に魅力を感じている場合にしろ、その本質はやっぱりそれらの人々が、ひとの知っていることは何でも知りたいと希う、労働者階級の要求として、その方向に発展させられてゆかなければならないことは誰にもわか・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 互いに倚りかかりっこで一体に纏まって行こうとするよりは、箇々が独立した存在で、互の間に放射される希望、信任、生気で、人生を暖かく溌溂たるものにして行こうと冀う。夫婦の間でも、同胞の間でも、皆そう云う傾向ではあるまいかと思います。或る箇・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・177その背景としての十九世紀のロシア p.179○しかも新しい人間を創造する六日目の予感がある、p.179○皆がみな限界をもたず未知の世界に立っている p.179○彼は生を痛感することを希う p.169○原泉から飲むことを・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ 人間の男女は、自然のままの表現としてはこんな発端で、愛情の永続を希う意志表示をして来た。そのような未開社会の男女の結合の間で、貞操などという言葉は思いつきもされなかった。同じくらいの好きさなら、同じぐらいいやでないならば、相手の男・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・そして膿の湧き出す腫物そのものを直して、清潔な人間らしい艷のある皮膚にしたいと希うのである。 浄らかな人間生活は、浄らかなり得る現実条件があり、或は少くともその可能が存在する社会事情がなければ営まれようもない。権力者らの、眼にあまる大き・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・私共は其を畏れ敬う心だけは、どうか失い度くないと希う。 人類の生活のより深正な幸福の希望や、正義へ向いての憧憬は時代から時代を貫いているのだ。三稜鏡は、七色を反射する。けれども太陽は、単に赤色に輝くものでなく、又紫に光るものでもない事を・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・ 今は、彼には彼女の死を希う意志が怨めしかった。「もうちょっとの辛抱さ。直き苦しくなくなるよ。」「あ、もう、あなたの顔が、見えなくなった。」と妻はいった。 彼は暴風のように眼がくらんだ。妻は部屋の中を見廻しながら、彼の方へ手・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫