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・・・(ははあ、乞丐瘠せた膝を、両腕で抱くようにして、その膝の上へ、髯の長い頤をのせている。眼は開いているが、どこを見ているのかわからない。やはり、この雨に遇ったと云う事は、道服の肩がぐっしょり濡れているので、知れた。 李は、この老人を見た時・・・
芥川竜之介
「仙人」
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・・・富有な旦那の冥利として他人の書画会のためには千円からの金を棄てても自分は乞丐画師の仲間となるのを甘じなかったのであろう。 この寛闊な気象は富有な旦那の時代が去って浅草生活をするようになってからも失せないで、画はやはり風流として楽んでいた・・・
内田魯庵
「淡島椿岳」