・・・彼はその日彼女を相手に、いつもに似合わず爛酔した。そうして宿へ帰って来ると、すぐに夥しく血を吐いた。 求馬は翌日から枕についた。が、何故か敵の行方が略わかった事は、一言も甚太夫には話さなかった。甚太夫は袖乞いに出る合い間を見ては、求馬の・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・無い子供だったせいかも知れませぬが、しかしそれにしても、その意地悪さが、ほとんど道理を絶して、何が何やら、話のどこをどう聞けばよいのか、ほとんど了解不可能な性質を帯びていまして、やはりあれは女性特有の乱酔とでも思うより他に仕方が無いようでご・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・高等学校のころには、頬に喧嘩の傷跡があり、蓬髪垢面、ぼろぼろの洋服を着て、乱酔放吟して大道を濶歩すれば、その男は英雄であり、the Almighty であり、成功者でさえあった。芸術の世界も、そんなものだと思っていた。お恥かしいことである。・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 月明るく 今夜 消魂の客昨日紅楼爛酔人。 昨日は紅楼に爛酔するの人年来多病感二前因一。 年来 多病にして前因を感じ旧恨纏綿夢不レ真。 旧恨 纏綿として夢真ならず今夜水楼先得レ月。 今夜 水楼 先ず・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・其故、欧州の戦乱後、世界の呪文のようになった米国の女性に就て物を考える場合にも、私は其等の乱酔的の興奮にはかられたくないと存じます。無批判で外界の刺戟に左右される事は恐ろしい事でございます。人が自分を殺すような事になります。 良いも悪い・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫