・・・ だが、母もマリヤもおれがこうもがきじにに死ぬことを風の便にも知ろうようがない。ああ、母上にも既う逢えぬ、いいなずけのマリヤにも既う逢えぬ。おれの恋ももう是限か。ええ情けない! と思うと胸が一杯になって…… えい、また白犬めが。番人・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 今私は浅間山のふもとの客舎で、この原稿を書きながらうぐいすやカッコウやホトトギスやいろいろのうたい鳥の声に親しんでいる。きじらしい声も聞いた。クイナらしい叩音もしばしば半夜の夢に入った。これらの鳥の鳴き声は季節の象徴として昔から和歌や・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・一つは三毛でもう一つはきじ毛であった。 単調なわが家の子供らの生活の内ではこれはかなりに重大な事件であったらしい。猫の母子の動静に関するいろいろの報告がしばしば私の耳にも伝えられた。 私の家では自分の物心ついて以来かつて猫を飼った事・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・大きじゃぃ。こったに大きじゃぃ。」 善コも一杯つかんでいました。「俺家のなもこの位あるじゃぃ。」 稲ずまが又白く光って通り過ぎました。「あ、山山のへっぴり伯父。」嘉ッコがいきなり西を指さしました。西根の山山のへっぴり伯父は月・・・ 宮沢賢治 「十月の末」
出典:青空文庫