・・・寧ろロシアの文学者が取扱う問題、即ち社会現象――これに対しては、東洋豪傑流の肌ではまるで頭に無かったことなんだが――を文学上から観察し、解剖し、予見したりするのが非常に趣味のあることとなったのである。で、面白いということは唯だ趣味の話に止ま・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・、男も人間の幸福ということを考えれば、女の幸福がその不可欠の条件であることを常識として身につけて、いわば最も直接な男の幸福問題として女の幸福も増す方向に動くようになって来るだろうということだけは確かに予見できる。 日本のような社会の伝習・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 党は彼等を支持しているけれども、それは農民のうちに社会主義的な生産方法によって行われる新しい農業、農村生活への理解を発育させ、明日の農村のあることを予見する農民のための芸術団体として価値を認めているわけである。 そのことを知ってい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・の関係の中で個人はふたたび見なおされ、たとえば、組合や政党などと、そこに属するそれぞれの人々の人間的・社会的具体性を見きわめ、歴史的な前進の可能の核と角度のありどころを洞察し、当然の摩擦も見解の相違も予見して、さらにその個人の社会的拡大の道・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・その権力の行為にはどんなスウィフトも描き出さなかった諷刺の対象があり、ルネッサンスのシェクスピアのヒューマニズムでは予見さえされなかった悲劇と笑劇のテーマがある。 わたしたちは、ほかならぬこの日本の土地に生れ、そこに生き、汗と涙と時たま・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・徒輩が、この紀行文から手前勝手な利益を引っぱり出すであろうことをも、はっきりと予見している。しかも彼が敢てこの紀行文を公表するのは、上述のような人類的な確信と共に、虚偽に固執することは却って敵の攻撃に絶好の機会を与えるものであるという現実生・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 既にはっきり予見されているこれらの困難を製作者と観衆とはどのようにのり越え、企業性や統制の方向と折衝してゆくであろうか。今日の社会生活の全面にあらわれている多難性が、ここにも映っていると思われる。最近日本映画の優秀作品として「若い人」・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・しかしそれは何人といえども予見し得るものではありません。特に青春の時期にある当人にとっては、それは全然見当のつかない、また特別の意義がありそうにも思えない、未知数に過ぎないのです。それが初めから飲み込めているほどなら、青春は危機ではありませ・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫