・・・……それじゃ、初めっから争議なんどやらなきゃええ。」健二はひとりで憤慨する口吻になった。 親爺は、間を置いて、「われ、その仔はらみも放すつもりか?」と、眼をしょぼしょぼさし乍らきいた。「うむ。」「池か溝へ落ちこんだら、折角こ・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・小作人は、折角、耕して作った稲を差押えられる。耕す土地を奪われる。そこでストライキをやる。小作争議をやる。やらずにいられない。その争議団が、官憲や反動暴力団を蹴とばして勇敢にモク/\と立ちあがると、その次には軍隊が出動する。最近、岐阜の農民・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・去年の秋だったかしら、なんでも青井の家に小作争議が起ったりしていろいろのごたごたが青井の一身上に振りかかったらしいけれど、そのときも彼は薬品の自殺を企て三日も昏睡し続けたことさえあったのだ。またついせんだっても、僕がこんなに放蕩をやめないの・・・ 太宰治 「葉」
・・・しかし水は労働争議などという言葉は夢にも知らない。 人間は自然を征服し自然を駆使していると思っている。しかし自然があばれだすと手がつけられないことを忘れがちである。全国至るところにある発電所の堰堤のどれかが、たとえば大地震のためにこわれ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・で貸借の争議を示談させるために借り方の男の両手の小指をくくり合せて封印し、貸し方の男には常住坐臥不断に片手に十露盤を持つべしと命じて迷惑させるのも心理的である。エチオピアで同様の場合に貸し方と借り方二人の片脚を足枷で縛り合せて不自由させると・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
煙突男 ある紡績会社の労働争議に、若い肺病の男が工場の大煙突の頂上に登って赤旗を翻し演説をしたのみならず、頂上に百何十時間居すわってなんと言ってもおりなかった。だんだん見物人が多くなって、わざわざ遠方から汽・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 九 東京市電気局の争議で電車が一時は全部止まるかと思ったら、臨時従業員の手でどうにか運転を続けていた。この予期しなかった出来事は、見方によっては、東京市民一般に関するいろいろな根本問題を研究するために必要あるい・・・ 寺田寅彦 「破片」
「ね、あんた、今のうち、尾久の家へでも、行っちゃったがいいと思うんだけど……」 女房のお初が、利平の枕許でしきりと、口説きたてる。利平が、争議団に頭を割られてから、お初はモウスッカリ、怖気づいてしまっている。「何を…・・・ 徳永直 「眼」
・・・「労働者? じゃあ堅気だね? それに又何だって跟けられてるんだい?」「労働争議をやってるからさ。食えねえ兄弟たちが闘ってるんだよ」「フーン。俺にゃ分らねえよ。だが、お前と口を利いてると、ほんとに危なそうだから俺は向うへ行くよ。そ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・職場の特殊性をすべて争議団側に有利なように科学的に利用している点とともに、革命的指導による極めて新しいストライキの型を示すものであった。交通産業上に歴史的なばかりでなく、これまで日本にあったストライキから見ても、溌溂とした闘争力、計画性、科・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫