・・・あなたも、ひどくおいそがしくなりました。二科会から迎えられて、会員になりました。そうして、あなたは、アパートの小さい部屋を、恥ずかしがるようになりました。但馬さんもしきりに引越すようにすすめて、こんなアパートに居るのでは、世の中の信用も如何・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・ 帝展には少ないが二科会などには「胃病患者の夢」を模様化したようなヒアガル系統の絵がある。あれはむしろ日本画にした方が面白そうに思われるのに、まだそういう日本画を見ない。これも意外である。 デパートのマークを付けたために問題になった・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・関東地震の起った瞬間に私は上野の二科会展覧会場の喫茶店で某画伯と話をしていた。初期微動があまり激しかったのでそれが主要動であると思っているうちに本当の主要動がやって来たときは少しはびっくりしない訳に行かなかった。しかしその最初の数秒の経過と・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ ことしの二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見つからなかった。昔の絵かきは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最もわか・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 今年の二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見付からなかった。昔の絵描きは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最も分りや・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
二科会 有島生馬氏。 この人の色彩が私にはあまり愉快でない。いつも色と色とがけんかをしているようで不安を感じさせられる。ことしの絵も同様である。生得の柔和な人が故意に強がっているようなわざとらしさを感じる。それ・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・雨が収まったので上野二科会展招待日の見物に行く。会場に入ったのが十時半頃。蒸暑かった。フランス展の影響が著しく眼についた。T君と喫茶店で紅茶を呑みながら同君の出品画「I崎の女」に対するそのモデルの良人からの撤回要求問題の話を聞いているうちに・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・ ところが今年は病気をして外出が出来なくなった。二科会や院展も噂を聞くばかりで満足しなければならなかった。帝展の開会が間近くなっても病気は一向に捗々しくない。それで今年はとうとう竹の台の秋には御無沙汰をすることにあきらめていた。そこへ『・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・私は二科会で何故こういう明白な模造を陳列させるかがどうしても解らない。 その他にも大分同類がある。同じ人で静物は甲の仏人、人物は乙の仏人といったように真似の使い分けをしているのもある。 椎塚氏の絵には何時もながら閉口するが、しか・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・ そういう前提を置いて、今年の二科会展覧会の絵を見たままの雑感を書いてみる事にする。 安井氏の絵がやはり目立って光っている。なんだか玉かろうせきを溶かしたもので描いてあるような気持がする。例えば、白ばらの莟の頭の少し開きかかった・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
出典:青空文庫