・・・思わず、何かと心労多かったことであったようだが、それより、三年たって、今日、精も根も使いはたして、洋服の中に腐りかけた泥がいっぱいだぶだぶたまって、ああ、夕立よ、ざっと降れ、銀座のまんなかであろうと、二重橋ちかきお広場であろうと、ごめん蒙っ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・その家族と喧嘩をして、追われるように田舎から出て来て、博覧会も、二重橋も、四十七士の墓も見たことがないそのような上京者は、私たちの味方だが、いったい日本の所謂「洋行者」の中で、日本から逃げて行く気で船に乗った者は、幾人あったろうか。 外・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・どこで飲んだ、どこで飲んだもねえものだ、おれが飲む処は新橋か柳橋、二重橋から和田倉橋、オットそいつはからくりだよ、何、今夜はね柳橋でね小紫をあいかたで飲みましたよ。オヤ小紫ですってそれなら柳橋じゃない吉原でしょう。ナーニ柳橋にも小紫というお・・・ 正岡子規 「煩悶」
出典:青空文庫