・・・「次郎ちゃんと姉やとは互角だ。」 そんなことを言って見ている三郎たちのそばで、また二人は勝負を争った。健康そのものとも言いたいお徳が肥った膝を乗り出して、腕に力を入れた時は、次郎もそれをどうすることもできなかった。若々しい血潮は見る・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・次第に財産も殖え、体重も以前の倍ちかくなって、町内の人たちの尊敬も集り、知事、政治家、将軍とも互角の交際をして、六十八歳で大往生いたしました。その葬儀の華やかさは、五年のちまで町内の人たちの語り草になりました。再び、妻はめとらなかったのであ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・双方互角である場合はまだ幸いである。いずれか一方の勢力がまされば禍である。同じような事は、違った人生観や社会観を持った人々の群れの間に行なわれる。いずれも一つの善い事を宣伝せんために他の善い事の存在を否定するから起こる。困った事にはそれがど・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
出典:青空文庫