・・・男体山麓の噴火口は明媚幽邃の中禅寺湖と変わっているがこの大噴火口はいつしか五穀実る数千町歩の田園とかわって村落幾個の樹林や麦畑が今しも斜陽静かに輝いている。僕らがその夜、疲れた足を踏みのばして罪のない夢を結ぶを楽しんでいる宮地という宿駅もこ・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・このすずめの分布は五穀の分布でだいたいは説明ができそうである。人間は金のある所へ寄るが鳥獣の分布はやはり「すぐに取って食える食物」の分布できまるものらしい。 星野に小さな水力発電所がある。六十五キロだそうである。これくらいのかわいいのだ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・たとえば、五穀の豊饒を祈り、風水害の免除をいのり、疫病の流行のすみやかに消熄することを乞いのみまつったのである。かくして民族の安寧と幸福を保全することが為政者の最も重要な仕事の少なくも一部分であったのである。 この重要な仕事に連関して天・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ クリスマスの用意に鵞鳥をつかまえてひざの間にはさんで首っ玉をつかまえて無理に開かせた嘴の中へ五穀をぎゅうぎゅう詰め込む。これは飼養者の立場である。鵞鳥の立場を問題にする人があらばそれは天下の嘲笑を買うに過ぎないであろう。鵞鳥は商品であ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 雑草の内にはわれわれの栽培している五穀や野菜や観賞植物とよく似通ったものがはなはだ多い。もしこれらの雑草を特にかわいがって培養し教育して行ったら、何代かの後にはかえって現在の有用植物よりももっと有用なものができうる可能性はないものだろ・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・p.221○汎神主義の貴重な五穀が欠けている。長閑さの欠乏、 ツワイクの解答は p.220 以下 弱い。率直に、ドストイェフスキーの人間界は人間性の極度の緊張、意識された対立の誇張、観念の子として説明すべきだ。つねに存在の最・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
出典:青空文庫