・・・見よ、彼らの亡国的感情が、その祖先が一度遭遇した時代閉塞の状態に対する同感と思慕とによって、いかに遺憾なくその美しさを発揮しているかを。 かくて今や我々青年は、この自滅の状態から脱出するために、ついにその「敵」の存在を意識しなければなら・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・此時に在り 質を二君に委ぬ原と恥づる所 身を故主に殉ずる豈悲しむを須たん 生前の功は未だ麟閣に上らず 死後の名は先づ豹皮を留む 之子生涯快心の事 呉を亡ぼすの罪を正して西施を斬る 玉梓亡国の歌は残つて玉樹空し 美人の罪は麗花・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・かくして過ぎなば「結局この国他国に破られて亡国となるべき也」これが日蓮の憂国であった。それ故に国家を安んぜんと欲せば正法を樹立しなければならぬ。これが彼の『立正安国論』の依拠である。 国内に天変地災のしきりに起こるのは、正法乱れて、王法・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・「そうだ。一流の文明批評家だ。」「フランスの人だったら、だめだ。」「なぜ?」「戦敗国じゃないか。」少年の大きな黒い眼には、もう涙の跡も無く、涼しげに笑っている。「亡国の言辞ですよ。君は、人がいいから、だめだなあ。そいつの言ってる・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・従ってここでいうところのチューインガム亡国論も畢竟はただ一場の空論に過ぎないと云われても仕方がないであろうが、しかしこの些末な嗜好品の流行の事実もそう軽々には見遁すことの出来ないものではあろうと思われる。 また考え直してみると日本という・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
出典:青空文庫