・・・ しかし声はふるえ、それがせめてもの女心だと亡夫を想った。 織田作之助 「薬局」
・・・ この主婦の亡夫は南洋通いの帆船の船員であったそうで、アイボリー・ナッツと称する珍しい南洋産の木の実が天照皇大神の掛物のかかった床の間の置物に飾ってあった。この土地の船乗りの中には二、三百トンくらいの帆船に雑貨を積んで南洋へ貿易に出掛け・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ 彼女にとっては継子である嗣子夫妻との間に理解を欠き、亡夫の一周年でも過ぎたら、どうにかして、彼等は全く絶縁した生活を講じなければならない状態に成って来たのです。 夕方、山を眺めて涼みながら、私共は随分種々のことを話し合いました。・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
出典:青空文庫