・・・若し自然の名のもとに如何なる旧習も弁護出来るならば、まず我我は未開人種の掠奪結婚を弁護しなければならぬ。 又 子供に対する母親の愛は最も利己心のない愛である。が、利己心のない愛は必ずしも子供の養育に最も適したものではない・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そのはちょっと黒色人種の皮膚の臭気に近いものだった。「君はどこで生まれたの?」「群馬県××町」「××町? 機織り場の多い町だったね。」「ええ。」「君は機を織らなかったの?」「子供の時に織ったことがあります。」 わ・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・今後私の生活がいかように変わろうとも、私は結局在来の支配階級者の所産であるに相違ないことは、黒人種がいくら石鹸で洗い立てられても、黒人種たるを失わないのと同様であるだろう。したがって私の仕事は第四階級者以外の人々に訴える仕事として始終するほ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ いよいよ出でて益々突飛なるは新学の林大学頭たるK博士の人種改良論であった。日本の文化を根本的に革新するには先ず人種を改造するが先決問題であるというが博士の論旨で、人種改良の速成法として欧米人との雑婚を盛んに高調した。K博士の卓説の御利・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 私は生れつき特権というものを毛嫌いしていたので、私の学校が天下の秀才の集るところだという理由で、生徒たちは土地で一番もてる人種であり、それ故生徒たちは銭湯へ行くのにも制服制帽を着用しているのを滑稽だと思ったので、制服制帽は質に入れて、・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ 人種の異ったような人びとが住んでいて、この世と離れた生活を営んでいる。――そんなような所にも思える。とはいえそれはあまりお伽話めかした、ぴったりしないところがある。 なにか外国の画で、あそこに似た所が描いてあったのが思い出せないた・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・世界中で、日本人ほどキリスト教を正しく理解できる人種は少いのではないかと思っています。キリスト教に於いても、日本は、これから世界の中心になるのではないかと思っています。最近の欧米人のキリスト教は実に、いい加減のものです。」「そろそろ展覧・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・私は自身を滅亡する人種だと思っていた。私の世界観がそう教えたのだ。強烈なアンチテエゼを試みた。滅亡するものの悪をエムファサイズしてみせればみせるほど、次に生れる健康の光のばねも、それだけ強くはねかえって来る、それを信じていたのだ。私は、それ・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・よく学び、よく遊ぶ、その遊びを肯定する事が出来ても、ただ遊ぶひと、それほど私をいらいらさせる人種はいない。 ばかな奴だと思った。しかし、私も、ばかであった。負けたくなかった。偉そうな事を言ったって、こいつは、どうせ俗物に違いないんだ。こ・・・ 太宰治 「父」
・・・ 何がおいしくて、何がおいしくない、ということを知らぬ人種は悲惨である。私は、日本のこの人たちは、ダメだと思う。 芸術を享楽する能力がないように思われる。むしろ、読者は、それとちがう。文化の指導者みたいな顔をしている人たちのほうが、・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫