・・・うことや、また、私の長兄は、私あるがために、くにの名誉職を辞したとか、辞そうとしたとか、とにかく、二十数人の肉親すべて、私があたりまえの男に立ちかえって呉れるよう神かけて祈って居るというふうの噂話を、仄聞することがあるのである。けれども、私・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・の事にて、美々しき服装、われに於いて何のうらやましき事も無之、全く黙殺し去らんと心掛申候えども、この人物は身のたけ六尺、顔面は赤銅色に輝き腕の太さは松の大木の如く、近所の質屋の猛犬を蹴殺したとかの噂も仄聞致し居り、甚だ薄気味わるく御座候えば・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・『中央公論』は、仄聞するところによると十万の出版部数をもっているそうだ。『中央公論』をよむ人はまたリーダーズ・ダイジェストもよんでいる。そして行政整理に生活不安を感じる人々である。鈴木文史朗の「何千万を殺す」という「理想的なやりかた」論・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・なると、まずもって法廷内に証人を入れておき、公判の途中で証人申請の手続をなし、証人は現在この法廷にいるといって直ちに証人尋問をはじめる、こうすれば証人尋問を有利にすすめることができるというようなことを仄聞している。かりにこれが事実とすれば、・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・という一作を持って文学の分野に現れた作家であるが、それ以前には組合の仕事、つまり当時の政治的な組織の活動をやっておられたように仄聞している。獄中生活で健康を害し執行停止され、現在は作家の活動をされている。島木氏が四国の方で農民組合の活動をし・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・といい、ジャーナリズムが社会的効果に対して無責任であることを指摘しているが、もし現在のジャーナリズムにそのような弱いところがなかったならば同氏によって『文芸』に推薦されたと仄聞する勝野金政の小説などは、烏滸がましくも小説として世間に面をさら・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫