・・・私は今春、招魂祭の夜の放送を聞いて、しみじみと思ったのである。近代の知性は冷やかに死後の再会というようなことを否定するであろうが、この世界をこのアクチュアルな世界すなわち娑婆世界のみに限るのは絶対の根拠はなく、それがどのような仕組みに構成さ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・それが春月のように今までの世界が空白になって、それからさきが彩られて──最も意義あることなのかもしれない。 ○ 昨年、私は一尺五寸ほどの桃の苗を植えた。それが今春花が咲き、いま青い実を結んでいる。桃栗何年とか云われるように・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・此地の温泉は今春以来かく大きなる旅館なども設けらるるようなりしにて、箱館と相関聯して今後とも盛衰すべき好位置に在り。眺望のこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜に沿いあるいは田圃を過ぐる路の興も無きにはあらず、空気殊・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
一 給仕人は電気 今春米国モンタナの工科大学で卒業生のために祝宴を開いた時、ボーイの代りに電気を使って御馳走した。一列に並べた食卓の真中に二条のレールを据え付け、この上を御馳走を満・・・ 寺田寅彦 「話の種」
出典:青空文庫