・・・第一、おめえさんなんぞ、上はアルパカだが、ズボンがいけねえよ。晒しでもねえ、木綿の官品のズボンじゃねえか。第一、今時、腰弁だって、黒の深ゴムを履きゃしねえよ。そりゃ刑務所出来の靴さ。それからな、お前さんは、番頭さんにゃ見えねえよ。金張りの素・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・古への礼に男女は席を同くせず、衣裳をも同処に置ず、同じ所にて浴せず、物を受取渡す事も手より手へ直にせず、夜行時は必ず燭をともして行べし、他人はいふに及ばず夫婦兄弟にても別を正くすべしと也。今時の民家は此様の法をしらずして行規を乱にして名を穢・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ただ企望する所は、仮令いその子を学校に入るるにもせよ、あるいは自宅にて教うるにもせよ、家の都合次第、今時の勢いにては才学に欠点なき父母も少なからん、あるいは家に教師を雇うべき財ある者も少なからんことなれば、やはり一時の姑息にて、よき学校を撰・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ 今時の若い者には武士の魂が一寸も入って居らん。若し戻りよってもきっと敷居をまたがせてはならんえ。 事によったら七生までの勘道(や。 栄蔵は、自分と同年輩の男に対する様な気持で、何事も、突発的な病的になりやすい十七八の達に対・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・おなかが痛いって寝てるって云うと、幾何いるんだ、十円下さい、十円なんているまいって云うから、今時医者に一遍かかったって五円とられるんですよ、貴方病人を見殺しにするんですかって云うとね、流石のおやじ、事ムの人におい、出してやれってので貰って来・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・そういうことから、「どうも今時の勉強した若い人は理窟ばかりいって、つくったものを見れば何にも別によくできていない」といわれるし、また若い人は「同じやるなら科学的にやってみたいわ、失敗してもいいから試みてみたいわ」という気持がある。そういうと・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・殿はなんとも云うことは出来なかった。今時の女、それにまだ二十にもならない女が大胆に自分の思って居ることを人に告げる、その事も主人の弟を思って居た事を主に告げる、あまり大胆な仕業であるが―― 殿は斯う思って迷った、けれ共常からどこか毛色の・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・「おら田舎婆さまで今時の子供は何が好きか分らないごんだ。お前好きなものこれで買え」 その一円は五十銭の銀貨二枚か札かであった。母は子供が金を持つことは悦ばない。然しこの場合は黙って見ている。 ふだん金というものを持たないから一円・・・ 宮本百合子 「百銭」
谷崎潤一郎の小説に「卍」という作品がある。その本が一冊千円で売られる話をきいた。小売店では、いくらなんでもとあやぶんでいたところ案外に買手がある。今時の金は、ある所にはあるものだ、という驚きとむすびつけて話された。荷風もよ・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・そして、インテリゲンツィアも「わかってはいるのさ、今時それぐらいのことの分らぬ奴があるか」という。だがこの分りかたは、観念論者ボグダーノフ流に「実践とは意識を組織することである」となるか、さもなければ p.102「資本主義体系の衰滅は、労働・・・ 宮本百合子 「「若い息子」について」
出典:青空文庫