・・・こちらにないスコットの油画具やカンヴァスも仕入れるつもりだった。フロイライン・メルレンドルフの演奏会へも顔を出すつもりだった。けれども六十何銭かの前には東京行それ自身さえあきらめなければならぬ。「明日よ、ではさようなら」である。 保・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・「女中さんは買物に、お汁の実を仕入れるのですって。それから私がお道楽、翌日は田舎料理を達引こうと思って、ついでにその分も。」「じゃ階下は寂しいや、お話しなさい。」 お民はそのまま、すらりと敷居へ、後手を弱腰に、引っかけの端をぎゅ・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・飴は一本五厘で、五十銭で仕入れると、百本くれる。普通は一本を二つに折って、それを一銭に売るのだから、売りつくすと二円になる。が、私は二つに折らずに、仕入れたままの長いのを一銭に売りました。そしてその日は全部売りつくすまで廻りましたが、自分で・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・正月を当てこんでうんと材料を仕入れるのだとて、種吉が仕入れの金を無心に来ると、「私には金みたいなもんあらへん」種吉と入れ代ってお辰が「維康さんにカフェたらいうとこイ行かす金あってもか」と言いに来たが、うんと言わなかった。 年が明け、松の・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫