・・・もっともそのスクリーンの周囲の同平面をふろしきやボール紙でともかくもふさいでしまって楽屋と見物席とを仕切るほうがなかなかの仕事ではあった。観客は亮の兄弟と自分らを合わせて四五人ぐらいはあったが、映画技師、説明者が同時に映画製造者を兼ねるのみ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 細い路を窮屈に両側から仕切る家はことごとく黒い。戸は残りなく鎖されている。ところどころの軒下に大きな小田原提灯が見える。赤くぜんざいとかいてある。人気のない軒下にぜんざいはそもそも何を待ちつつ赤く染まっているのかしらん。春寒の夜を深み・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・湯槽を仕切る板壁に沢山柄杓がかかっていた。井とか、中村、S・Sなどと柄杓の底に墨で書いてある。 そこを過ぎると、人家のない全くの荒地であった。右にも左にも丘陵の迫った真中が一面焼石、焼砂だ。一条細い道が跫跡にかためられて、その間を、彼方・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫