・・・ 犬田小文吾夜深うして劫を行ふ彼何の情ぞ 黒闇々中刀に声あり 圏套姦婦の計を逃れ難し 拘囚未だ侠夫の名を損ぜず 対牛楼上無状を嗟す 司馬浜前に不平を洩らす 豈翔だ路傍狗鼠を誅するのみならん 他年東海長鯨を掣す 船虫・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・は幾度か憩いけるに、初めは路の傍の草あるところに腰を休めなどせしも、次には路央に蝙蝠傘を投じてその上に腰を休むるようになり、ついには大の字をなして天を仰ぎつつ地上に身を横たえ、額を照らす月光に浴して、他年のたれ死をする時あらば大抵かかる光景・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・は、古来女性の学問教育を等閑に附して既に其習慣を成したることなれば、今日遽に之を起して遽に高尚の門に入れんとするも、言う可くして行わる可らざるの所望なれば、我輩は今後十年二十年の短日月に多きを求めず、他年の大成は他年の人の責任に遺して今日は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫