・・・かつ他日この悪道路が改善せられて市街が整頓するとともに、他の不必要な整頓――階級とか習慣とかいう死法則まで整頓するのかと思えば、予は一年に十足二十足の下駄をよけいに買わねばならぬとしても、未来永劫小樽の道路が日本一であってもらいたい。 ・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ 諸君、他日もし北陸に旅行して、ついでありて金沢を過りたまわん時、好事の方々心あらば、通りがかりの市人に就きて、化銀杏の旅店? と問われよ。老となく、少となく、皆直ちに首肯して、その道筋を教え申さむ。すなわち行きて一泊して、就褥の後に御・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・ 僕を商売人と見たので、また厭気がしたが、他日わが国を風靡する大文学者だなどといばったところで、かの女の分ろうはずもないから、茶化すつもりでわざと顔をしかめ、「あ、いたた!」「うそうそ、そんなことで痛いものですか?」と、ふき出し・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ が、考証はマダ僅に足を踏掛けたばかりであっても、その博覧癖と穿鑿癖とが他日の大成を十分約束するに足るものがあった。『帝諡考』の如き立派な大著を貢献されたのは鴎外の偉大な業績の一つである。考証家の極めて少ない、また考証の極めて幼稚な日本・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・の秋 十年剣を磨す徒爾に非ず 血家血髑髏を貫き得たり 犬飼現八弓を杖ついて胎内竇の中を行く 胆略何人か能く卿に及ばん 星斗満天森として影あり 鬼燐半夜閃いて声無し 当時武芸前に敵無し 他日奇談世尽く驚く 怪まず千軍皆辟易する・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・が、糞泥汚物を押流す大汎濫は減水する時に必ず他日の養分になる泥沙を残留するようにこの馬鹿々々しい滑稽欧化の大洪水もまた新らしい文化を萌芽するの養分を残した。少なくも今日の文芸美術の勃興は欧洲文化を尊重する当時の気分に発途した。 井侯が陛・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・そのことについては、他日、その機を得て感謝する時があろうと思います。 医者は、仁術であるべきであるが、独り、このことを医者だけに求めるべきものでない。そんなら、今後、医者は、何うなるべきであるか。もし、これを国有としたならばと思われるの・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・西鶴とスタンダールが似ていることを最初に言ったのは私であるが、これは他日詳しく論ずる。ただ、ここでは、私の西鶴観は「西鶴はリアリストの眼を持っていたが、書く手はリアリストのそれではなかった」というテエマから出発していることを言って置こう。こ・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・汝今日の狂喜は他日汝の裏に熟して荘重深沈なる歓と化し汝の心はまさにしき千象の宮、静かなる万籟の殿たるべし。 ああ果たしてしからんか、あるいは孤独、あるいは畏懼、あるいは苦痛、あるいは悲哀にして汝を悩まさん時、汝はまさにわがこの言を憶うべ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・願わくは他日忸れて初心を忘るるなかれ。余初めて書を刊して、またいささか戒むるところあり。今や迂拙の文を録し、恬然として愧ずることなし。警戒近きにあり。請う君これを識れと。君笑って諾す。すなわちその顛末を書し、もって巻端に弁ず。 明治十・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
出典:青空文庫