・・・幸福に、かつできうべくんば、その人の分相応――わたくしは分外のことを期待せぬ――の社会価値を有して死ぬとすれば、病死も、餓死も、凍死も、溺死も、震死も、轢死も、縊死も、負傷の死も、窒息の死も、自殺も、他殺も、なんの哀弔し、嫌忌すべき理由もな・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・、幸福に、且つ出来得べくんば其人の分相応――私は分外のことを期待せぬ――の社会的価値を有して死ぬとせば、病死も、餓死も、凍死も、溺死も、焚死も、震死も、轢死も、縊死も、負傷の死も、窒息の死も、自殺も、他殺も、なんの哀弔し嫌忌すべき理由はない・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・下山事件をみても、一ヵ月の間、検察庁は他殺か自殺か、わざと不明瞭にしたまま、ひっぱってきている。下山夫人が妻として良人の自殺を直感して、身辺の者にそのことを洩らしたという事実さえ今日まで公表させませんでした。夫人はどういう圧力に強要されたの・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ところが他殺でないことがわかったきょうでも、まだ死者に対するはっきりした哀悼は示されていない。 命を奪われるほど悪人でなかった故人。むしろ弱点も人間的といえた故人。国鉄五十万人と運命をともにした故人。世間に暗い衝撃を与えることは、故人の・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・自殺か他殺であるかという重大な点も、すでに十日ちかくたったこんにち、まだ明瞭にされない。簡単に明瞭にされ得ないいりくんだ事情も伏在しているわけだろう。いわゆる推理小説家にとっては、この事件が他殺か自殺かをはっきりさせて、その原因、手段をとき・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
出典:青空文庫