・・・いずれにしても著者の腹にない付け焼き刃の作物では科学的にはもちろん、文学的にもなんらの価値がありようはないのである。 科学者が自分の体験によって獲得した深い知識を、かみ砕きかみ締め、味わい尽くしてほんとうにその人の血となり肉となったもの・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・人間はどうかすると未熟な科学の付け焼き刃の価値を過信して、時々鳥獣に笑われそうな間違いをして得意になったり、生兵法の大けがをしてもまだ悟らない。科学はまだまだ、というよりはむしろ永久に自然から教えを受けなければならないはずである。科学の目的・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・そうして付け焼き刃の文明に陶酔した人間はもうすっかり天然の支配に成功したとのみ思い上がって所きらわず薄弱な家を立て連ね、そうして枕を高くしてきたるべき審判の日をうかうかと待っていたのではないかという疑いも起こし得られる。もっともこれは単なる・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・真の偉人は飾らずして偉である。付け焼き刃に白眼をくるる者は虚栄の仮面を脱がねばならぬ、高き地にあってすべてを洞察する時、虚栄は実に笑うに堪えぬ悪戯である。美を装い艶を競うを命とする女、カラーの高さに経営惨憺たる男、吾人は面に唾したい、食を粗・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫