・・・関係――ええと――関係代名詞? そうそう関係代名詞だね。代名詞だから、そら、ナポレオンと云う名詞の代りになる。ね。代名詞とは名に代る詞と書くだろう。」 話の具合では、毛利先生はこのカッフェの給仕たちに英語を教えてでもいるらしい。そこで自・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・彼は無風帯を横ぎる帆船のように、動詞のテンスを見落したり関係代名詞を間違えたり、行き悩み行き悩み進んで行った。 そのうちにふと気がついて見ると、彼の下検べをして来たところはもうたった四五行しかなかった。そこを一つ通り越せば、海上用語の暗・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・あの人は、いまでは、全然、馬鹿の代名詞である。けれども彼が果して馬鹿であるか、どうかは、それに就いては、理想主義者のみぞよく知るところである。高邁の理想のために、おのれの財も、おのれの地位も、塵芥の如く投げ打って、自ら駒を陣頭にすすめた経験・・・ 太宰治 「デカダン抗議」
・・・次に御話したいのは先年来自然主義をある一部の人が唱え出して以後世間一般ではひどくこれを嫌ってはては自然主義といえば堕落とか猥褻とかいうものの代名詞のようになってしまいました。しかし何もそう恐れたり嫌ったりする必要は毫もないので、その結果の健・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・病院の看護婦といえば、風紀のみだれたもの、という代名詞のように思われていた。酒気を帯びないで勤務している者は一人もないという状態であった。他ならぬそういう看護婦の中に入って行こうというのであるから、フロレンスの周囲が驚倒したのもいわばもっと・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫