・・・ 椅子の上の陳彩は、彼以外の存在に気がつくが早いか、気違いのように椅子から立ち上った。彼の顔には、――血走った眼の中には、凄まじい殺意が閃いていた。が、相手の姿を一目見るとその殺意は見る見る内に、云いようのない恐怖に変って行った。「・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・第四階級者以外の生活と思想とによって育ち上がった私たちは、要するに第四階級以外の人々に対してのみ交渉を持つことができるのだ。ストーヴにあたりながら物をいっているどころではない。全く物などはいっていないのだ」と。 私自身などは物の数にも足・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・そうしてそのおのおのの間には、今日すでにその肩書以外にはほとんどまったく共通した点が見いだしがたいのである。むろん同主義者だからといって、かならずしも同じことを書き、同じことを論じなければならぬという理由はない。それならば我々は、白鳥氏対藤・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 私は思うに、これは多分、この現世以外に、一つの別世界というような物があって、其処には例の魔だの天狗などという奴が居る、が偶々その連中が、吾々人間の出入する道を通った時分に、人間の眼に映ずる。それは恰も、彗星が出るような具合に、往々にし・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・それぞれの用意も想像以外の水でことごとく無駄に帰したのである。 自分はこの全滅的荒廃の跡を見て何ら悔恨の念も無く不思議と平然たるものであった。自分の家という感じがなく自分の物という感じも無い。むしろ自然の暴力が、いかにもきびきびと残酷に・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ かつ椿岳の水彩や油画は歴史的興味以外に何の価値がない幼稚の作であるにしろ、洋画の造詣が施彩及び構図の上に清新の創意を与えたは随所に認められる。その著るしきは先年の展覧会に出品された広野健司氏所蔵の花卉の図の如き、これを今日の若い新らし・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ゆえにデンマークの富源といいまして、別に本国以外にあるのでありません。人口一人に対し世界第一の富を彼らに供せしその富源はわが九州大のデンマーク本国においてあるのであります。 しかるにこのデンマーク本国がけっして富饒の地と称すべきではない・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・その時分には、天才を人間以外の人間の如く、天才には、すべてが許されなければならないと、特権あるものゝ如くに考えた時代もありました。 いま、それ等が、いかに愚であったかということと悟るのであります。英雄も、天才もたゞ真実に生きる人間という・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・大阪だ。催眠剤に使用される珈琲は結局実用的珈琲だが、今日の大阪もついに実用的大阪になり下ってしまったのだろうか。 しかし大阪はもともと実用的だったとひとは言うだろう。違う。大阪以外の土地が非実用的すぎただけで、大阪には味も香もあったのだ・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・しかし他の友人以外の人たちは、こうした佐々木の挨拶を聴いてどう思ったか、それは私には分らない。何となれば今度の笹川の長編ではモデルとして佐々木は最も苛辣な扱いを受けている。佐々木に言わせれば、笹川の本能性ともいうべき「他の優越に対する反感性・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫