・・・そして、現在一年余の結婚生活の経験に於て、其は仮令非常に短時間ではあっても、最初の自分の考えは、全然間違って居たものではない事を認めて来た。 人は、自分の裡に未だ顕われずに潜む多くの力の総てを出し切る機会を持たなければ、其等力の実値を体・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・そして、そういう力なしに大きい作品は書けないのだが、私は自分が過去二三年の間、そのひろくて、熱のある想像力の土台の蓄積のために随分身を粉にしたし、そのおかげで今日自身が仮令僅かなりともそういう文学上の力を再び我ものにしたことを実感しているの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「仮令どんなによくしても監獄はよくならない」――人間をよくする処にはならない、とクロポトキンが云った通りだとすると、ここで数年を暮した女性はどうなって世に送りかえされるのであろう。 男性の中には、自分の経験した獄中生活を記録した人が多く・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ 嬉しい。仮令一枚の葉書でも、故国から来たものとなると、心持が異う。毎朝、小さい鍵で、箱の蓋を開けるとき、自分は必ず丸い大様な書体で紙面を滑って居る母の手跡を期待して居る。 自分が其那に待ちながら、同じように待って居るに異いない母へ・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・ 人間の推移する興味を素早く見てとる商人達は、飽るまで仮令その商品がどんなに尊いものであろうと、彼等の飾窓には出して置かない。程よく、斬新な色調の織物、宝石の警抜な意匠、複雑な歯車、神秘的なまで単純な電気器具、各々の専門に従って置きかえ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・そして、やっと出来上るから、仮令、一つの石を自分で運んだのではなくても、「我が家」と云う心的の繋が出来るのです。若し、真個に家につながる各々の心、記憶愛と云うものを感じ、尊むとすれば、現代の、多くの人々が新たな家に対すより、或は、もう少し濃・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ 日本女の胆嚢は計らず一つの問題を、СССРの社会衛生に向ってなげ与えた。仮令先について居るたまが金むくであろうとも、二米のゴム管を十二指腸へ送り込む芸当は優美にして 快適な至芸ではない。自分は一生の間に屡々此は繰りかえしたくないこ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・出来るなら、其那面倒のない、其那無気味な大家の所有でない家に、仮令暫くでも棲みたく思ったのである。 市外ならば、其程見出すのが困難でもないらしい。然し、自分等二人ぎりで当分はやって行こうとするのに、瓦斯も水道もない処で、どうしよう。要心・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 四月二十八日 今日、福井の方から転送されて来た国男の手紙を見る。 仮令感傷的だと云う点で非難はされるとしても、彼が深夜、孤り胸を満す寂寥に堪えかねて書いた文字は、自分を動かさずには置かない。心から心へと響いて来るのだ。 自・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・此の資本主義の存在している限り、それは仮令、排撃せらるべき文学であるとしても、新しき資本主義文学の発生するのも、また当然でなければならぬ。 しかし、もしそうして資本主義文学が新しく発生したとしても、彼らは唯物論的な観察精神をもった新感覚・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
出典:青空文庫