・・・という自祝の狂歌は縁組の径路を証明しておる。媒合わされた娘は先代の笑名と神楽坂路考のおらいとの間に生れた総領のおくみであって、二番目の娘は分家させて質屋を営ませ、その養子婿に淡島屋嘉兵衛と名乗らした。本家は風流に隠れてしまったが、分家は今で・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 祖母の使っていた糸車はその当時でもすっかり深く媒色に染まったいかにも古めかしいものであった。おそらく祖母の嫁入り道具の一つであったかもしれない。あるいはまた曾祖母の使い慣れたのを大切に持ち伝えたものであったかもしれないのである。とにか・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・かかる勢にては、この書生輩の行末を察するに、専門には不得手にしていわゆる事務なるものに長じ、私に適せずして官に適し、官に容れざれば野に煩悶し、結局は官私不和の媒となる者、その大半におるべし。政府のためを謀れば、はなはだ不便利なり、当人のため・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対して恰も格式りきみの長座を為さず、昔年のりきみは家を護り面目を保つの楯となり、今日のりきみは身を損じ愚弄を招くの媒たるを知り、早々にその座を切上げて不体裁の跡を収め、下士もま・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・三人の年とった、ヒスイの簪の脚で頭を掻いては絶えず喋っている媒合。自分。気違いがそこへ入って来た。ふらつき歩いた土足のまま何と云っても足を洗わない。着物の上にネンネコをひっかけ、断髪にもその着物の裾にも埃あくたをひきずっている。体全体から嘔・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫