・・・「どうか一人仲間入りさしてください。おや、おはまさんも繩ない……こりゃありがたい。わたしはまたせめておはまさんの姿の見えるところで繩ないがしたくてきたのに……」「あア政さん、ここへはいんなさい。さアはま公、おまえがよくて来たつんだか・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・椿岳は晩年画かきの仲間入りをしていたが画かき根性を最も脱していた。椿岳の作品 が、画かき根性を脱していて、画料を貪るような卑しい心が微塵もなかった代りに、製作慾もまた薄かったようだ。アレだけの筆力も造詣もありながら割合に大作に乏しい・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 二十五年の歳月が聊かなりとも文人の社会的位置を進めたのは時代の進歩として喜ぶべきであるが、世界の二大戦役を終って一躍して一等国の仲間入りした日本としては文人の位置は猶お余りに憐れで無かろう乎。例えば左にも右くにも文部省が功労者と認めて・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・そうすれば、自分は、もう二たび我子の顔を見ることは出来ないが、子供は人間の仲間入りをして、幸福に生活をするであろうと思ったからであります。 遥か、彼方には、海岸の小高い山にある神社の燈火がちらちらと波間に見えていました。ある夜、女の人魚・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・そうすれば、自分は、ふたたび我が子の顔を見ることはできぬかもしれないが、子供は人間の仲間入りをして、幸福に生活をすることができるであろうと思ったのです。 はるか、かなたには、海岸の小高い山にある、神社の燈火がちらちらと波間に見えていまし・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・そして、坊ちゃんや、お嬢さんたちのお仲間入りをいたします。私は、もう、さびしくて、さびしくてかないません……。」と、まりはいいました。 雲は、このことを聞くと、また、まりの心持ちに同情をしました。「それほど、あなたが帰りたいなら、つ・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・だから、あなたも知らぬ顔をして、その仲間入りをしていられたら、だれも不思議に思うものはありますまい。ひとつ都にいって、大胆にそうなさってはいかがですか。」と、かもめはいいました。「そうですか、ひとつ考えてみましょう。」と、からすは答えま・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・を日本の文学の可能としなければ、もはや近代の仲間入りは出来ないのである。小説を作るということは結局第二の自然という可能の世界を作ることであり、人間はここでは経験の堆積としては描かれず、経験から飛躍して行く可能性として追究されなければならぬ。・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・象を与えるからで、それは多少人びとには軽蔑されてはいても、おもしろ半分にでも手真似で話してくれる人があり、鼻のつぶれた声でもその話を聞いてくれる人があってこそ、そのお婆さんも何の気兼もなしに近所仲間の仲間入りができるので、それが飾りもなにも・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・浦人島人乗せて城下に往来すること、前に変わらず、港開けて車道でき人通り繁くなりて昔に比ぶればここも浮世の仲間入りせしを彼はうれしともはた悲しとも思わぬ様なりし。「かくてまた三年過ぎぬ。幸助十二歳の時、子供らと海に遊び、誤りて溺れしを、見・・・ 国木田独歩 「源おじ」
出典:青空文庫