・・・兵衛はまず供の仲間が、雨の夜路を照らしている提灯の紋に欺かれ、それから合羽に傘をかざした平太郎の姿に欺かれて、粗忽にもこの老人を甚太夫と誤って殺したのであった。 平太郎には当時十七歳の、求馬と云う嫡子があった。求馬は早速公の許を得て、江・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ぼくたちをむかえに来てくれた人足はその仲間の所にいって、「おい、ちょっとそこをどきな」といったらみんな立ち上がった。そこにポチがまるまって寝ていた。 ぼくたちは夢中になって「ポチ」とよびながら、ポチのところに行った。ポチは身動きもしなか・・・ 有島武郎 「火事とポチ」
・・・饑渇に迫られ、犬仲間との交を恋しく思って、時々町に出ると、子供達が石を投げつける。大人も口笛を吹いたり何かして、外の犬を嗾ける。そこでこわごわあちこち歩いた末に、往来の人に打突ったり、垣などに打突ったりして、遂には村はずれまで行って、何処か・・・ 著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外 「犬」
・・・二十七年あたかも日清戦争の始まろうという際に成ったのであるが、当時における文士生活の困難を思うにつけ、日露開戦の当初にもまたあるいは同じ困難に陥りはせぬかという危惧からして、当時の事を覚えている文学者仲間には少からぬ恐慌を惹き起し、額を鳩め・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・なア省作お前も鮓仲間になってよ」「わたしはどっちでも……」「省作お前そんなこと言っちゃいけない。兄さんと満蔵はいつでも餅ときまってるから、お前は鮓になってもらわんけりゃ困る。わたしとおはまが鮓で餅の方も二人だから、省作が鮓となればこ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ こないな意気地なしになって、世の中に生きながらえとるくらいなら、いッそ、あの時、六カ月間も生死不明にしられた仲間に這入って、支那犬の腹わたになっとる方がましであった。それにしても、思い出す度にぞッとするのは、敵の砲弾でもない、光弾の光でも・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・この拗者の江戸の通人が耳の垢取り道具を揃えて元禄の昔に立返って耳の垢取り商売を初めようというと、同じ拗者仲間の高橋由一が負けぬ気になって何処からか志道軒の木陰を手に入れて来て辻談義を目論見、椿岳の浅草絵と鼎立して大に江戸気分を吐こうと計画し・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかし出たものは、死んだ仲間の分も生きのびてしげって、幾十年も、幾百年も雄々しく太陽の輝く下で華やかに暮らしてもらいたい。もし、二つなり、三つなりが、いっしょに明るい世界へ出ることがあったら、たがいに依り合って力となって暮らしそうじゃないか・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・人寂しく寝るという意味を表現する言葉である、その昔アラビヤ人というものはなかなかのエピキュリアンであったから、齢十六歳を過ぎて一人寝をするような寂しい人間は一人もいなかった、ところがある時一人の青年が仲間と沙漠を旅行しているうちに仲間に外れ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・そんなとき人は、今まで自然のなかで忘れ去っていた人間仲間の楽しさを切なく胸に染めるのである。そしてそんなこともこのアーチ形の牢門のさせるわざなのであった。 私が寐る前に入浴するのはいつも人々の寝しずまった真夜中であった。その時刻にはもう・・・ 梶井基次郎 「温泉」
出典:青空文庫