・・・そして倫理学はその実践への機を含んでしかも、直接に発動せず、静かに、謙遜に、しかも勇猛に徹底して、その思想の統一をとげ、不落の根拠を築きあげようと企図するものであり、そこには抑制せられたる実行意志が黙せる雷の如くに被覆されているのである。・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・帝国主義的発展の段階に這入った資本主義は、その商品市場を求めるためと、原料を持って来るために、新しく植民地の分割を企図する。植民地の労働者をベラ棒に安い、牛か馬かを使うような調子に働かせるために、威嚇し、弾圧する。その目的に軍隊を使う。満洲・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・自然主義文学が、資本主義的生産関係を反映し、あるがまゝに現実を描こうと企図したのに対して、この写生派、余裕派、低徊派等は支配階級の中に根強く巣喰っている封建主義を多分に反映して逃避的唯美的傾向に走っていた。それが、この派をして、社会的現実と・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜であります。「チエホフ的に」などと少しでも意識したならば、かならず無慙に失敗します。言わでもの事であったかも知れません。君も既に一個の創作家であり、すべてを心得て居られる事と思いますが、君の作品の底に少・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・雰囲気の醸成を企図する事は、やはり自涜であります。〈チエホフ的に〉などと少しでも意識したならば、かならず無慙に失敗します。無闇に字面を飾り、ことさらに漢字を避けたり、不要の風景の描写をしたり、みだりに花の名を記したりする事は厳に慎しみ、ただ・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・ などと、とってつけたように、思わせぶりの感慨をもらし、以ておかみさんの心の動揺を企図したものだが、しかし、そのいつわりの縁談はそれ以上、具体化する事も無く、そのうちに君は、卒業と同時に仙台の部隊に入営して、岡野がいなくては、いかに大石・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・寝てからいろいろその改善を企図することもあるけれども、これはどうにも死ななきゃ直らないというような程度に迄なっているようです。 私も、もう三十九になりますが、世間にこれから暮してゆくということを考えると、呆然とするだけで、まだ何の自信も・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・おそらくこの監督自身の企図している道程から見ても、わずかに一歩を踏み出したに過ぎないではないかと思われる。聞くところによるとこの有名な映画監督は日本の文化の中の至るところに映画術的要素があるのに、日本の今の映画には不思議にその要素が欠けてい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・観音の境内や第六区の路地や松屋の屋上や隅田河畔のプロムナードや一銭蒸汽の甲板やそうした背景の前に数人の浅草娘を点出して淡くはかない夢のような情調をただよわせようという企図だとすれば、ある程度までは成効しているようである。ただもう一息という肝・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・きっと前途に重畳する難関を一つ一つしらみつぶしに枚挙されてそうして自分のせっかく楽しみにしている企図の絶望を宣告されるからである。委細かまわず着手してみると存外指摘された難関は楽に始末がついて、指摘されなかった意外な難点に出会うこともある。・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
出典:青空文庫