・・・金粉を振ったのは大きな失敗でこれも展覧会意識の生み出した悪い企図である。 速水御舟の「家」の絵は見つけどころに共鳴する。しかしこれはむしろやはり油絵の題材でないか。とにかくこの人の絵はまじめであるがことしのは失敗だと思う。 富田渓仙・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・それはちょうど手ぬぐい浴衣もあればつづれ錦の丸帯もあると同様なわけであって、各種階級の購買者の需要を満足するようにそれぞれの生産者によって企図され製作されて出現し陳列されているに相違ない。 商品として見た書籍はいかなる種類の商品に属する・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 短歌や俳句が使い古したものであるからというだけの単純な理由からその詩形の破棄を企て、内容の根本的革新を夢みるのもあえてとがむべき事ではないとしても、その企図に着手する前に私がここでいわゆる全機的日本の解剖学と生理学を充分に追究し認識し・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・なぜかと言えば、詩歌にはその言葉の連続によって生ずる一貫した企図の表現、平たく言えば筋書きがあって、その筋書きによって代表された一つのまとまった全体があり、そういう点では律動的でない戯曲や小説や紀行文や随筆やとも共通な要素をもっている。それ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・その上、夫婦の愛情をおとりにし、運動に習熟していない妻であるわたしをとおして、宮本顕治をとらえようと計画する企図も試みられた。自分の愛を最もたえがたい方法によって悪用されまいとするだけにも、絶間ない精神と肉体の緊張を必要とした。 一九三・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・昏迷や作品の上での無解決が問題ではなく昏迷・無解決そのものの社会的・心理的因子と作者の企図する動向が芸術の胚種であることは誰しも知っている。作品の読後感がそこに触れざるを得ない理由もここにある。 作家の主観というものは、それだけにたよっ・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ソヴェト同盟に向けて計画された出血の諸企図は、ついにこの国の社会生活を貧血死に導くことができなかった。このことには人類史的な意味があり、歓喜があるのである。 ソヴェト同盟では、集団農場・国営農場があって、機械化された農業が行われている。・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・この事業はアンドレイ・デレンコフによって精密に計画され、一留ごとに三分五厘の利益を得るように企図された。ゴーリキイはセミョーノフの大きい汚い地下室から、いくらかましな小さいデレンコフの地下室へ移って来た。「四十人の職人仲間の代りに、一人のパ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・それは、私に非常な好意を持っていてくれる或る人が、私の当時の心境を察し、抱いている爆薬のような企図を、大層慫慂してくれたことです。ところがその人が不用意の間に発した一言が、私には霹靂のようなショックを与えました。かえって事態は、まるで逆転し・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・『慈悲光礼讃』という画題は、氏がこの画を描こうとした時の想念を現わすものかどうかは知らないが、もしこの種の企図を持ってこの画を描いたとすれば、そこにすでに破綻がある。もとより僕は画家が想念の表現に努めることを排するのではないが、その想念がか・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫