・・・私はこの姿を一目見ると、すぐにそれが四五日前に、ある会合の席上で紹介された本多子爵だと云う事に気がついた。が、近づきになって間もない私も、子爵の交際嫌いな性質は、以前からよく承知していたから、咄嗟の間、側へ行って挨拶したものかどうかを決しか・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・ 宵から、銀座裏の、腰掛ではあるが、生灘をはかる、料理が安くて、庖丁の利く、小皿盛の店で、十二三人、気の置けない会合があって、狭い卓子を囲んだから、端から端へ杯が歌留多のようにはずむにつけ、店の亭主が向顱巻で気競うから菊正宗の酔が一層烈・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・の一行をじろりとみまわし、躙り寄って、お米が背後に立った前の処、すなわち旧の椅子に直って、そして手を合せて小間使を拝んだので、一行が白け渡ったのまで見て知っている位であるから、この間のこの茶店における会合は、娘と婆さんとには不意に顔の合った・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・期せずして真面目な、堅苦しい会合となった。お袋は不安の状態を愛想笑いに隠していた。 その間に、吉弥はどこかへ出て行った。あちらこちらで借り倒してある借金を払いに行ったのである。 主人がその代りに会合に加わって、「もう、何とか返事・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・近時は鴎外とも疎縁となって、折々の会合で同席する位に過ぎなかったが、それでも憶出せば限りない追懐がある。平生往来しない仲でも、僅か二年か三年に一遍ぐらいしか会わないでも、昔し親しくした間柄は面と対った時にいい知れないなつかしさがある。滅多に・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ ヨッフェが来た時、二葉亭が一枚会合に加わっていたらドウだったろう。あの会合は本尊が私設外務大臣で、双方が探り合いのダンマリのようなもんだったから、結局が百日鬘と青隈の公卿悪の目を剥く睨合いの見得で幕となったので、見物人はイイ気持に看惚・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・学生の倶楽部や青年の会合には必ず女学生が出席して、才色あるものが女王の位置を占めていた。が、子女の父兄は教師も学校も許す以上はこれを制裁する術がなく、呆然として学校の為すままに任して、これが即ち文明であると思っていた。 自然女学校は高砂・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・外交をして廻っていると、儲ける機会もないではなく、そしてまた何年かのちに、また新聞に二度目の秋山さんとの会合を書かれることを思えば、少しは……と思わぬこともなかったが、しかし、書かれると思えばかえって自分を慎みたい、不正なことはできないと思・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ずるずるべったりに放って置いて、やがて市内で会合のある時など早くから外出した序でに、銀行へ廻る。がもうその時は、小切手の有効期間が切れている。振出人に送り戻して、新しい小切手を切ってもらうのがまた面倒くさい。「そんなわけで、大した金額で・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・京都時代の私達の会合――その席へはあなたも一度来られたことがありますね――憶えていらっしゃればその時いたAです。 この四月には私達の後、やはりあの会合を維持していた人びとが、三人も巣立って来ました。そしてもともと話のあったこととて、既に・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
出典:青空文庫