・・・ 古来有名なる、岩代国会津の朱の盤、かの老媼茶話に、奥州会津諏訪の宮に朱の盤という恐しき化物ありける。或暮年の頃廿五六なる若侍一人、諏訪の前を通りけるに常々化物あるよし聞及び、心すごく思いけるおり、又廿五六なる若侍来る。好き連と・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・「おそれいります。会津の藩士でございます。」「剣術なども、お幼い頃から?」「いいえ、」上の姉さんは静かに笑って、私にビイルをすすめ、「父にはなんにも出来やしません。おじいさまは槍の、――」と言いかけて、自慢話になるのを避けるみた・・・ 太宰治 「佳日」
・・・まして祖父を見た事のない、あるいは朧気にしか覚えていない子供等には、会津戦争や西南戦争時代の昔話は書物で見る古い歴史の断片のようにしか響かないだろう。そしてそれだけにかえって祖父に対するなつかしみは浄化され純化されて子供等の頭の中の神殿に収・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ 次の日遊びに来た女の子にきいて見ると、「会津へ行くからなのよ。と云う。 そうして見ると、銀行仲間を順繰りに呼んでは別れの騒をやって居るのと分るが、そんならそうで、ああ馬鹿放題な事をしずともと思われる。 怒鳴らな・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 十五分もかからないで上ると私共の炬燵に入って、会津の方の女の話をした。非常な働き者で、東京の娘達の様に箸より重いものは持てない様には必(してして居ないと殊更、私にあてつけでもする様な口調で云った。先生と云う臭味がこんな時プーンとする。・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫