・・・――おい、君、こうなればもう今夜の会費は、そっくり君に持って貰うぜ。」 飯沼は大きい魚翅の鉢へ、銀の匙を突きこみながら、隣にいる和田をふり返った。「莫迦な。あの女は友だちの囲いものなんだ。」 和田は両肘をついたまま、ぶっきらぼう・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ある上役や同僚は無駄になった香奠を会費に復活祝賀会を開いたそうである。もっとも山井博士の信用だけは危険に瀕したのに違いない。が、博士は悠然と葉巻の煙を輪に吹きながら、巧みに信用を恢復した。それは医学を超越する自然の神秘を力説したのである。つ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・思切って、ぺろ兀の爺さんが、肥った若い妓にしなだれたのか、浅葱の襟をしめつけて、雪駄をちゃらつかせた若いものでないと、この口上は――しかも会費こそは安いが、いずれも一家をなし、一芸に、携わる連中に――面と向っては言いかねる、こんな時に持出す・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・おきまりの会費で存分愉しむ肚の不粋な客を相手に、息のつく間もないほど弾かされ歌わされ、浪花節の三味から声色の合の手まで勤めてくたくたになっているところを、安来節を踊らされた。それでも根が陽気好きだけに大して苦にもならず身をいれて勤めていると・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
一 神田のある会社へと、それから日比谷の方の新聞社へ知人を訪ねて、明日の晩の笹川の長編小説出版記念会の会費を借りることを頼んだが、いずれも成功しなかった。私は少し落胆してとにかく笹川のところへ行って様子を聞いてみようと思って、郊・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・きょうは会社に出勤、忘年会とか、いちいち社員から会費を集めている。酒盛り。ぼくは酒ぐせ悪いとの理由で、禁酒を命じられ、つまらないので、三時間位、白い壁の天井を眺めながら、皆の馬鹿話を聞いていました。それから御得意に挨拶に行き、会員、主任のう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 四、五日前役所で忘年会の廻状がまわった。会費は年末賞与の三プロセント、但し賞与なかりし者は金弐円也とあった。自分は試験の準備でだいぶ役所も休んだために、賞与は受けなかったが、廻状の但し書が妙に可笑しかったからつい出掛ける気になって出席・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・赤いてがらは腰をかけ、両袖と福紗包を膝の上にのせて、「校友会はどうしちまったんでしょう、この頃はさっぱり会費も取りに来ないんですよ。」「藤村さんも、おいそがしいんですよ、きっと。何しろ、あれだけのお店ですからね。」「お宅さまでは・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・三百名ほどまとまり、十銭の会費完納。一部でヒ行器のエンジン。────────────────────────────────── ◎各工場の建物分離。はじからはじまで三十分もかかる。工場のドアをしめきると、各工場分り出来る。ふだん、・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・これだけの経費をまかないながら、MRAの会員が会費を払ったという話はきいたことがない。 世界の疑惑の眼がMRAに集りはじめている。去年第一回のMRAの大会には、アメリカの名士が大勢出席したが、本年のコーの大会にはアメリカの上院、下院あわ・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
出典:青空文庫