・・・ 奉行「その方はいずこの何ものより、さような教を伝授されたぞ。」 吉助「われら三年の間、諸処を経めぐった事がござる。その折さる海辺にて、見知らぬ紅毛人より伝授を受け申した。」 奉行「伝授するには、いかなる儀式を行うたぞ。」 ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・かというと、これは、私も最近ようやく気附いた事で、この大発見を諸君に易々と打明けるのは惜しいのであるが、ただいま期せずして座の一隅より、切望懇願のうめき声が発せられたようでもあり、まあ致しかた無い、御伝授しましょう。男子の真価は、武術に在り・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ふたたび、とは、唐突にしていかにも虚飾の言の如く思召し、れいの御賢明の苦笑など漏し給わんと察せられ候も、何をか隠し申すべき、われ幼少の頃より茶道を好み、実父孫左衛門殿より手ほどきを受け、この道を伝授せらるる事数年に及び申候えども、悲しい哉、・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ こうした外国仕入れの知識は何といっても貧弱であるが、手近い源泉から採取した色々の知識のうちで特に目立って多いものは雑多なテクニカルな伝授もの風の知識である。例えば『永代蔵』では前記の金餅糖の製法、蘇枋染で本紅染を模する法、弱った鯛を活・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・鎌の使い方、鎌のとぎ方も百姓に伝授を受けていよいよ取りかかった。 刈り始めてみるとなかなか骨が折れる。よっぽど刈ったつもりでも、立ち上がって見ると手のひらぐらいしか進行していないのにがっかりした。しかしやっているうちにだんだん草を刈って・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・「するとその可愛らしい声も山猿の御伝授をうけたと云わるるわけだな。さだめし月のある谷川で叫ばれただろうし日のてる木の枝でもなかれただろうな」 又前と同じ調子で有る。「さようでございますとも仰のとおりに暮しましたので色はこの通りま・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・この間、私の伝授で或る若いひとが、近頃よくある紫のしぼりでそれをこしらえて着ているのを見た。とも切れの幅ひろく短い紐をちょんと横に結んだところもなかなか愛らしくて、びらしゃらもしないのである。 日本の着物の感覚で、色彩的ということがもっ・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫