・・・真個の伴侶は、友は、而して母は、少うございます。 其の一口に申せば生温るさに、満ち足りなかった男性の心は、此国の強健な肉体と、少くとも自己を主張し得る女性の「張り」に、甦ったような解放を感じずには居られないのでございます。弾力のある心、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 竹内てるよさんは、カリエスという病が不治であることのため徹也という愛児をおいて家を去り、貧窮の底をくぐって、今は、療養の伴侶であり、友である神谷暢氏と夫婦でない、結婚生活でない共同生活を十三年営んでおられる。「苦しみぬき、もま・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・長女の峰子さんも、歌のことでは夫人のよい伴侶らしかった。 私が短歌については知ることが少なかったことも、お話の出なかった一つの原因であろうと思う。 やがて、孝子夫人にとって、多くの忍耐と勇気とを求める闘病の時期がはじまった。新宿の病・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ 少年の感情の世界にひそかな駭きをもって女性というものが現れた刹那から、人生の伴侶としての女性を選択するまでには成育の機変転を経るわけである。感情の内容は徐々に高められて豊富になって行くのだから、いきなり恋愛と結婚とをつなぎ止めてしまう・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・ 此処に、家庭の主婦として芸術に指を染めようとする者と、先ず芸術を本領とし、愛する者の伴侶であろうとする者との、截然岐るべき点がある。 福島からとりと云う五十歳ばかりの女中が来、自分の生活が一方にはっきりと重点を定めて仕舞うまで、今・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・旧藩主上杉伯の伴侶としてイギリスに旅立った。留守宅の収入は文部省官吏とし月給半額。妻と三子あり。高等学校の学生であった頃から父の洋行したい心持はつよく、ロンドンやパリの地図はヴェデカの古本を買って暗記する位であった由。この知識が偶然の功を奏・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・絶えず病気で、非常に貧しく、ときどきその日のパンにさえ事を欠く彼女は「自分の苦難を少しでも忘れるため、自分の孤独を慰めるため、自分自身の伴侶になるような気持で」ものを書きはじめた。 偶然のことから二三の作家と知り合うようになり、オオドゥ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・人間として完成する伴侶としての男と女との結合ということがこの時代には眼目とされたのであった。 確かに白樺派に属する若い人々は、まじめに、軽蔑など感ぜず女に対し、たとえば小間使いの女との間に生じた関係をも全心的に経験したであろう。女を一人・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・花圃の小説中最も愛らしく聰明な婦人と思われている女主人公は、日本の富国強兵の伴侶として、その内助者としての女性の生活を最も名誉あるものと結論しているのである。後年花圃の良人三宅雪嶺とその婿である中野正剛等が日本の文化における反動的な一つの元・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫