・・・演説をやらんで何を致しますかと伺うと、ただ出席してみんなに顔さえ見せれば勘弁すると云う恩命であります。そこで私も大決心を起して、そのくらいの事なら恐るるに及ばんと快く御受合を致しました。――今日はそう云う条件の下にここに出現した訳であります・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・あなたのお住いへ伺うことは憚りますのですから。わたくしはただいまから頼んでおいて Rue Romaine 十八番地に落ち着きますことにいたしましょう。 わたくしはこんなに手短に乾燥無味に書きます。これは少し気分が悪いからでございます。電・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・お話が古くなっていけないというので墨水師匠などはなるたけ新しい処を伺うような訳ですが手前の処はやはりお古い処で御勘弁を願いますような訳で、たのしみはうしろに柱前に酒左右に女ふところに金とか申しましてどうしてもねえさんのお酌でめしあがらないと・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・ てっちゃんがこの間あなたの御意見を伺う前、もしいいとおっしゃったらと思って、前もって都合を聞いたらば、心よく引き受けてくれて嬉しゅう御座いました。あなたのお考えを聞いてから、はっきりしたことはきめることにしてあったから、つまり中止にな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・今これを書いていて、あなたのお体はどうかしらと考え、それを伺うと、実際は私がお会いした後の御様子をきくことになるのですものね。 着物のことも、そのほか本のことも、おめにかかって伺いましょう。きょうは久しぶりで机の上に赤いバラの花を一輪買・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の影響とトルストーイの作品が私の成長の糧で、千葉先生には、課外の読書のことで放課後、たまに三十分ぐらい話を伺うようになった。 先生は、いろいろのことを考慮してであったろうが、余り私的なことや感情問題にはふれず、単純に本の話をされた。そし・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・事務所では忙しがっているからというわけか、事務所の仕事に直接関係のある用事のかたが、夜や朝早く、日曜の朝など早く来られると、事務所の用事は事務所で伺うことにしていますからと、おことわり申しました。押しかえし、一寸でよかったらと云われても、譲・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ 今まで、授かった、安らかな、快い眠りは、神のやさしい御心で、この世の、最後の眠りを楽しゅうさせ様がために下されたものなのでの、 わしは、久しい間神にお召(をして居たほどに誤たない神の御心を伺う事が出来るのじゃ。第二の若僧は・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・とを繰り返して言うのである。 一体忠利は弥一右衛門の言うことを聴かぬ癖がついている。これはよほど古くからのことで、まだ猪之助といって小姓を勤めていたころも、猪之助が「ご膳を差し上げましょうか」と伺うと、「まだ空腹にはならぬ」と言う。ほか・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・その弟子が窃み聴いてその咒を記えて、道士の留守を伺うて鬼を喚んだ。鬼は現われて水を灑き始めた。而るに弟子は召ぶを知って逐うを知らぬので、満屋皆水なるに至って周章措く所を知らなかったということがある。当時の新聞雑誌はこの弟子であった。予はこれ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫