・・・女の職業と仕事との分裂した評価が女の側からさえ行われている間、仕事そのものの内容や評価も、自然客観的には低められ、歪み無気力なディレッタンティズムの中にかがまってしまうことになると思います。〔一九三七年七月〕・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・あのころ、また戦争がはじまるんでしょうか、と顔つきをかえ低めた声でその恐怖を示した日本の婦人は決して一人二人ではなかった。手おくれにならないうちにと、東京から疎開荷物を送り出しはじめている人の話もきいた。ところがそれほど婦人に恐怖を与える戦・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・所謂純文学が或る面では、案外に文学的内容を低めている動機もこのような点と切りはなしては見られまいと思われる。 私はこの『現代文学論』から、自分としてわかっていた筈だったのに、こんな風にはっきりとは分っていなかったと自覚する多くのものを与・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ プロレタリア文学は文学の分野で、はじめて、おくれた資本主義日本の封建的ののこりものの多い社会機構の中で、文化はどういう歪みを強いられて来ているか、婦人はどうして文学創造の能力を低められているかということを追求し、明白にしはじめた。婦人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ このような現実は、結婚の質を低めているばかりでなく、当面には恋愛の質をも粗悪、粗忽にしていると思う。いつかわが手から落ちるだろうと思って摘む花を、誰が一々やかましく吟味して眺め、研究して掴むだろう。そういう、とことんのところで消極的な・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・然し、その女のひとは、電車の隅々までよくとおる声を低めず、進駐軍のために日本語を教えていること、自分がアメリカに生れたというので大変よろこんで親切にしてくれること、チョコレートやお砂糖をどっさりくれることを話した。「そりゃ甘いチョコレートで・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・けれども、現代は本の数はあるが、本のなかみへの愛や探求心や尊敬が随分低められて来ている。文学の領域について云えば、作品の現実が、そこで扱われている感情のありようにしろ本質的には通俗で、読者にその作品の背後の作者の生活態度までを考えさせる力に・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・日本では文学のわかる批評家が問題にしないような通俗小説が読者の低められている文化力の上で稼いでいるのと違って、例えば「鋼鉄は如何に鍛えられたか」が、所謂批評家の注意をひかぬ以前から、すでに大衆的な支持を得ていたというような事実が、文学作品の・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・家、しかもその作家的気質の主な傾向は感性的な作家である場合、当時の波瀾極りなきロシアの建設の現実、その気分、その亢奮から遠のいていたことは、作家としてゴーリキイの内部の焔の高さ、明るさ、暖かさをどの位低めていたか分らない。ゴーリキイ自身が想・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・いったときの要素に立って、婦人はよき家庭の主婦として日進月歩の日本の社会に働く男をよくたすけなければならない、という必要の範囲で制定されたことは、若い婦人の読者の数を一般的に多くしながら他の面では質を低め、低められてそこにやすんじている女の・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
出典:青空文庫