・・・○立ち廻りとか、だんまりとか号するものは、前後の筋に関係なき、独立したる体操、もしくは滑稽踊として賞翫されているらしい。筋の発展もしくは危機切逼という点から見たら、いかにも常識を欠いた暢気な行動である。もしくは過長の運動である。その代り・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・丁度跛を兵式体操に引き出したようなもので、如何せんどうも歩調が揃わぬ。それは、諸君と行動を共にしたいけれども、どうもそう行かないので仕方がない。こういうのをインデペンデントというのです。勿論それは体質上のそういう一種のデマンドじゃない、精神・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・の第一頁を読むだけでも、独逸的軍隊教育の兵式体操を課されたやうで、身体中の骨節がギシギシと痛んで来る。カントは頭痛の種である。しかし一通り読んでしまへば、幾何学の公理と同じく判然明白に解つてしまふ。カントに宿題は残らない。然るにニイチェはど・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・小学の教則に、さまざま高上なる課目をのせ、技芸も頂上に達して、画学、音楽、唱歌、体操等を教授せんとする者あるが如し。田舎の百姓の子に体操とは何事ぞ。草を刈り、牛を飼い、草臥はてたるその子供を、また学校に呼びて梯子登りの稽古か、難渋至極という・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・大将「いいや、今わしは神のみ力を受けて新らしい体操を発明したじゃ。それは名づけて生産体操となすべきじゃ。従来の不生産式体操と自ら撰を異にするじゃ。」特務曹長「閣下、何とぞその訓練をいただきたくあります。」大将「ふん。それはもちろ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・入ったところの広場で一つの組が丁度体操をやっている。十七八人の男女の工場学校の生徒が六列に並んで、一人の生徒の指揮につれて手を動かし、足をあげ、時々、ホ! ホ! エハーッ! エハーッ!とかけ声をかけ、笑いながらやってい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・コンクリートの広い廊下のはずれの高いところに一つラジオの拡声器が据えつけてあって、朝ラジオ体操のかけ声を鳴り響かす。そして、たまに音楽の中継なども聴かすのであるが、どういうセットをつかっているのであるか、私のいた方のラジオでは第一放送と第二・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 自分は今野の体が心配で半分そっちへ注意を引かれた心持で朝十分間体操をやる。病気になってはならない。益々そう思うようになった。 十時頃、冷えのしみとおったうすら寒さと眠たさとでぼっとしているところへ、紺服の陽にやけた労働係が一人・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・しかし、そのワヤワヤワヤはまだいいので、こまるのは体操。ここの体操の先生はいやにリズミカルで、机に向っていると勢よく、「さーア手をあげて! ハッハッハッハッ」とそういう風なのです。「そら! ホイ、ハッ」そういうの。何だか少し野師のようでしょ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして思量の体操をする積りで、哲学の本なんぞを読み耽っているのである。お母あ様程には、秀麿の健康状態に就いて悲観していない父の子爵が、いつだったか食事の時息子を顧みて、「一肚皮時宜に合わずかな」と云って、意味ありげに笑った。秀麿は例の笑を顔・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫