・・・また自分としても、如上の記述に関する引用書目を挙げて、いささかこの小論文の体裁を完全にしたいのであるが、生憎そうするだけの余白が残っていない。自分はただここに、「さまよえる猶太人」の伝記の起源が、馬太伝の第十六章二十八節と馬可伝の第九章一節・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ 以上は単なるスペキュレーションに過ぎないが近来ますます盛んになった分子物理学上の諸問題と連関して種々興味ある研究題目を暗示する点において多少の意味があろうと思うので本誌の余白を借りて思いついたままをしるした次第である。 金属と油と・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・ とにかく、これに関してはやはり『野鳥』の読者の中に知識を求めるのが一番の捷径であろうと思われるので厚顔しくも本誌の余白を汚した次第である。 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・ いわゆる思想善導の問題でも、あらゆる方法の中で最も有効有力なものは、適当な映画の制作であろうと思われるが、これについては余白がないからここれは触れない。しかしうかうかしていると、色々な妙な思想がフィルムの形になって外国から続々入り込ん・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ もし許さるるならば、時々こういう材料の断片を当誌の余白を借りて後日のために記録しておきたいと思う。二 錨と怒り、いずれも「イカリ」である。ところが英語の anchor と anger が、日本人から見ればやはり互いに似・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・例えば書物の頁の余白のようなものか。それとも人間のからだで云えば、例えば――まあ「耳たぶ」か何かのようなものかもしれない。耳たぶは、あってもなくても、別に差支えはない。しかしなくてはやっぱり物足りない。 その後軽井沢に避暑している友・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・ 先生のノートや原稿を見るときれいな細字で紙面のすみからすみまでぎっしり詰まっていて、「余白」というものがほとんどなかったようである。 しかし先生は、「むだ」や「余白」だらけのだらしのない弟子たちに対して、真の慈父のような寛容をもっ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ これだけで端書の余白はもうなくなってしまったが、これが端緒になって私はこの虫について色々の事を考えたり想像したりした。 昔の学者などの中にはほとんど年中、あるいは生涯貧しい薄暗い家の中に引き籠ったきりで深い思索や瞑想に耽っていたよ・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・しかし、それでもいいからと云われるので、ではともかくもなるべくよく読み返してみてからと思っているうちに肝心な職務上の仕事が忙しくて思うように復習も出来ず、結局瑣末な空談をもって余白を汚すことになったのは申訳のない次第である。読者の寛容を祈る・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・そういう意味で有益なおもしろい記事をタイムス週刊の第一ページや処々の余白の埋め草に発見する事がある。 もしかりに私がこのような週刊や旬刊の社会欄を編集するとしたらどういう記事をおもに出すだろうと考えてみた。人殺しや姦通などを出すとしても・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
出典:青空文庫