・・・アメリカのジャズとドイツのジャズとの偶然な対比の余響からたまたまそういう気がしたかもしれない。 それにしてもわれわれ生粋の日本人のほんとうに要求する音映画はまだどこにもない。そういったような気がするのであった。われわれの要求するものはや・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そうして一つのものの余響はやがて次の声の中に没し、そういう事が順次に引き続いていつまでも繰り返される。それがちょうどたとえば仕掛け花火か広告塔のイルミネーションでも見るような気がしてならないのである。つまり身にしみるような宣伝はわりに少ない・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・その瞬間に自分の頭の中のどこかのすみを他の同窓のだれかれの影が通り過ぎてすぐ消えたのかもしれない、そうして中でもいちばん早くなくなったS君の記憶が多少特別なアクセントをもって印銘された、その余響のようなものがこの夢のS君出現の動機になったの・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・村の貯水池や共同水車小屋が破壊されれば多数の村民は同時にその損害の余響を受けるであろう。 二十世紀の現代では日本全体が一つの高等な有機体である。各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されている・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ この地質地形の複雑さの素因をなした過去の地質時代における地殻の活動は、現代においてもそのかすかな余響を伝えている。すなわち地震ならびに火山の現象である。 わずかに地震計に感じるくらいの地震ならば日本のどこかに一つ二つ起こらない日は・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そうして宅へ帰ってみると、彼の二人の女の子がやはり茶の間のラジオの前にすわり込んで、ここでも野球戦の余響をまき散らしているのである。いったいおまえたちにはこれがわかるのかと聞いてみると「そうねえ」というあまり要領を得ない返事であった。とにか・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・い甲音と乙音とが接続して響く際われわれ人間の内耳の微妙な機官に何事が起こってその結果われわれの脳髄に何事が起こるかということについては今日でも実はまだよくわかっていないのであるが、ただ甲が残して行った余響あるいは残像のようなものと、次に来る・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫