・・・ 親兄弟みんなたばになって、七ツのおれをいじめている、とひがんで了って、その頃から、家族の客間の会議をきらって、もっぱら台所の石の炉縁に親しみ、冬は、馬鈴薯を炉の灰に埋めて焼いて、四、五の作男と一緒にたべた。一日わが孤立の姿、黙視し兼ねてか・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・「お前の嫁は、作男ととんでもない事をしてその種を宿して居る。 お前のほんとの子だと思うと大した間違いだ。 おっつけられないうちに、どうとかしたらよかろう。 姑は、それをつきつけては嫁をいびった。 息子は、信じなか・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 畑の斜に下って居る桑の木の下に座って仙二は向うに働いて居る作男のくわの先が時々キラッキラッと黒土の間に光るのや、馬子が街道を行く道かならずよる茶屋めいた処の子達が池に来て水をあびて居るのなんかを見て居た。 仙二のすきな歌も口には出・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・ 雇人や作男などは、皆猫っかぶりの大嘘つきで、腹のうちでは何をたくらんでいるか、知れたものでないと思い込んでいる年寄りは、枝一本下すにも始めから終りまで自分の目の前でさせ、納屋へ木束を運ぶまで見届けなければ安心がならない。 大汗にな・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・をなげして骨だらけの胸を拡げたり、せばめたりして寝入って仕舞う、そのわきから掘り返された土は白くホコホコに乾いて行く様子は都会の生活をするものの想像できないみじめな有様で、又東北のやせた地に耕作する小作男を見ないものには味われない、哀れな、・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・この百姓はブルトンの作男でイモーヴィルの市場の番人である。 この男の語るところによれば、かれはそれを途上で拾ったが、読むことができないのでこれを家に持ち帰りその主人に渡したものである。 このうわさがたちまち近隣に広まった。アウシュコ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫