・・・が、不義の対手の忘恩者を赦した沼南の大雅量は直接事件に交渉したものの外は余り知らない。使用人同様の玄関番の書生の身分で主人なり恩師なりの眼を窃んでその名誉に泥を塗るいおうようない忘恩の非行者を当の被害者として啻に寛容するばかりでなく、若気の・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・稍しばらく控所で待たされてから、女給仕に案内せられて廊下のはずれの方へと連れて行かれるので、館主の大橋さんが面会するのかと思うと、そうではなくて、其の使用人の中の重立ったらしい人の詰めている事務室であった。その人はわたくしの一存では賠償金の・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・けれど、会社がひければ或る日は研究会へ出席し、或る日曜日は全協の一般使用人組合の仕事を手伝わなければならなくなって来た。 それだのに、彼O氏は、K子の生活変化の必然性を理解しないばかりか、会えば宵の七時から十二時までぶっつづけにくッつい・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・の為に、彼女等が殆ど一人として云わない事はない Humanity の為に是非を喧しくするのが一種の常套であると共に、日本の現代の常套は女性の経済的独立と称し、職業的自覚と称して、無自覚に価値もない者の使用人と成る事でございます。 此の種・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・という非人道的な発言が人民の運命に関して権力の使用人たちによって云われている事実を、人民としてわたしたちは許しておくべきではないと思う。人々が誠意をもって、少数者の利益のためにでっちあげられる戦争に反対を声明し、日本の人々をこめる世界の人民・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ひとを一定の罪にひっかけるために挑発し、行動したものは、それが権力の使用人であれば罪はないというものだろうか。罪の原因をうみ出しつつあるものに罪はないのだろうか。この社会の正義というものについて大きい疑問を呈出したのがユーゴーの「レ・ミゼラ・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・刻々の歴史に対する客観的な眼力を喪えば、文学上のディフォーメイションはディフォームした人生の局面の屈伏した使用人ともなるのであると思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
出典:青空文庫