・・・の立場から見て貴重な材料を供給するものであることは周知なことである。例えば当時の富人の豪奢の実況から市井裏店の風景、質屋の出入り、牢屋の生活といったようなものが窺われ、美食家や異食家がどんなものを嗜んだかが分かり、瑣末なようなことでは、例え・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 埋火 炭火を灰で埋めれば酸素の供給が乏しくなるから燃えにくくなって永く保っている。しかし終には燃えてしまうのは空気が少しずつ中を流通している証拠である。 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・しかし故人がそういう方面の内幕話に興味を有ち、またそういう材料の供給者を有っていた事はたしかである。 子規は世の中をうまく渡って行く芸術家や学者に対する反感を抱くと同時に、また自分に親しい芸術家や学者が世の中をうまく渡る事が出来なくて不・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・ 今度の伊豆地震など、地震現象の機構の根本的な研究に最も有用な資料を多分に供給するものであろうが、学者の熱心がいかに強くても研究資金が乏しいため、思う研究の万分の一もできないであろうから、おそらくこの貴重な機会はまたいつものように大部分・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・われわれ階級の生活に許される程度のわずかな面積を泉水や植え込みや石燈籠などでわざわざ狭くしてしまって、逍遙の自由を束縛したり、たださえ不足がちな空の光の供給を制限しようとは思わない。樹木ももちろん好きである、美しい草花以上にあらゆる樹木を愛・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・その外に煙突の煙からは煤に混じて金属の微粒も出る、火山の噴出物もまた色々の塵を供給する。その上に地球以外から飛来する隕石の粉のようなものが、いわゆる宇宙塵として浮游している。 このような塵に太陽から来る光波が当れば、波のエネルギーの一部・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ もし万一の自然の災害か、あるいは人間の故障、例えば同盟罷業やなにかのために、電流の供給が中絶するような場合が起ったらどうだろうという気もした。そういう事は非常に稀な事とも思われなかった。一晩くらいなら蝋燭で間に合せるにしても、もし数日・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・次三男出身の血路は、ただ養子の一方のみなれども、男児なき家の数は少なくして、次三男出生の数は多く、需要供給その平均を得ずして、つねに父兄の家に養われ、ついには二世にして姪の保護を蒙りて死する者少なからず。これを家の厄介と称す。俗にいわゆるす・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・油揚は昔は大へん供給が充分だったのですけれども、今はどうもそんなじゃありません。それで、実はこれは廃れた食物であります。成分は蛋白質が二二パアセント、脂肪が十八ポイント七パアセント、含水炭素が零ポイント九パアセントですが、これは只今ではあん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 水色やかんを下げてYが、ヒョイヒョイとぶような足つきで駅の熱湯供給所へ行く後姿を、自分は列車のデッキから見送っている。あたりはすっかり雪だ。СССРでは昔からどんな田舎の駅でも列車の着く時間には熱湯を仕度してそれを無料で旅人に支給する・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫