・・・ 民衆 民衆は穏健なる保守主義者である。制度、思想、芸術、宗教、――何ものも民衆に愛される為には、前時代の古色を帯びなければならぬ。所謂民衆芸術家の民衆の為に愛されないのは必ずしも彼等の罪ばかりではない。 又・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・されば階級といい習慣といういっさいの社会的法則の形成せられたる時は、すなわちその社会にもはや新らしき声の死んだ時、人がいたずらに過去と現在とに心を残して、新らしき未来を忘るるの時、保守と執着と老人とが夜の梟のごとく跋扈して、いっさいの生命が・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・かつこの猿芝居は畢竟するに条約改正のための外人に対する機嫌取であるのが誰にも看取されたので、かくの如きは国家を辱かしめ国威を傷つける自卑自屈であるという猛烈なる保守的反動を生じた。折から閣員の一人隈山子爵が海外から帰朝してこの猿芝居的欧化政・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・人は一面、保守的であると同時に、またそれを破壊し行く冒険性を持っているものだ。本当の意味に於ける人間生活の歴史は、平和にしろ、革命にしろ、みな現実主義に立脚している。我々は未だ曾て現実に立脚しない仕事の成功した例を聞かない。例えば如何なる運・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・えようとする定跡である以上、自由人としての人間の可能性を描くための近代小説の形式は、つねに伝統的形式へのアンチテエゼでなければならぬのに、近代以前の日本の伝統的小説が敗戦後もなお権威をもっている文壇の保守性はついに日本文学に近代性をもたらす・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・という根本的な方針が、既に、一年前に確立され、質的飛躍の第一歩がふみだされているとき、工場労働者とはちがった特殊な生活条件、地理環境、習慣、保守性等を持った農民、そして、それらのいろいろな条件に支配される農民の欲求や感情や、感覚などを、プロ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・斯のように神仏を崇敬するのは維新前の世間の習慣で、ひとり私の家のみのことではなかったのだが、私の家は御祖母様の保守主義のために御祖父様時代の通りに厳然と遣って行った、其衝に私が当らせられたのでした。畢竟祖父祖母が下女下男を多く使って居た時の・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・私は、これまでどんなに深く天皇を愛して来たのかを知った。私は、保守派を友人たちに宣言した。 × 十歳の民主派、二十歳の共産派、三十歳の純粋派、四十歳の保守派。そうして、やはり歴史は繰り返すのであろうか。私は、歴史は繰・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・私は厳しい保守的な家に育った。借銭は、最悪の罪であった。借銭から、のがれようとして、更に大きい借銭を作った。あの薬品の中毒をも、借銭の慚愧を消すために、もっともっと、と自ら強くした。薬屋への支払いは、増大する一方である。私は白昼の銀座をめそ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・東北の保守性。保守と封建。インフレーション。政治と経済。闇。国民相互の信頼。道徳。文化。デモクラシー。議会。選挙権。愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」等である。幕あく。舞台しばらく空虚。突然、荒・・・ 太宰治 「春の枯葉」
出典:青空文庫