・・・ 保釈になった最初の晩、疲れるといけないと云うので、早く寝ることにしたのだが、田口はとうとう一睡もしないで、朝まで色んなことをしゃべり通してしまった。自分では興奮も何もしていないと云っていたし、身体の工合も顔色も別にそんなに変っていなか・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・検事が保釈をとり消す、と言ってると、弁護士から聞かされた時だ。 ――俺はとんでもねえことをやったわい。と私は後悔したもんだ。私にとっては、スパイを蹴飛ばしたのは悪くはないんだが、監獄にまたぞろ一月を経たぬ中、放り込まれることが善くないん・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・私は次の日出かけることになっていてステーションまで皆を送りに行ったら、丁度前の日保釈で出たばかりの小林多喜二が、インバネスも着ず大島絣の着物の肩をピンと張って、やっぱり見送りに来ていた。待合室の床の上にカタカタと高く下駄の音をたてて歩きなが・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・三月下旬、保釈となった。百合子は慶応病院に入院した。保釈の際、判事は二・二六による戒厳令下の事情によって百合子の公判が終了するまで顕治への面会通信は控えるようにといった。 六月二十六日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の○○氏は保釈出獄しました由、大阪電話。 From Annette & Sylvie “Annette felt that, alone, she was incomplete; incomplete in mind・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫