・・・して見れば彼の馬の脚がじっとしているのに忍びなかったのも同情に価すると言わなければならぬ。…… この解釈の是非はともかく、半三郎は当日会社にいた時も、舞踏か何かするように絶えず跳ねまわっていたそうである。また社宅へ帰る途中も、たった三町・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・しかし彼等がその主張に殉じた態度は、同情以上に価すると思う。』と、云うのです。そこで私がもう一度、『じゃ君は彼等のように、明治の世の中を神代の昔に返そうと云う子供じみた夢のために、二つとない命を捨てても惜しくないと思うのか。』と、笑いながら・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・何も金将軍の伝説ばかり一粲に価する次第ではない。 芥川竜之介 「金将軍」
・・・殊に大きいギャントリイ・クレエンの瓦屋根の空に横わっていたり、そのまた空に黒い煙や白い蒸気の立っていたりするのは戦慄に価する凄じさである。保吉は麦藁帽の庇の下にこう云う景色を眺めながら、彼自身意識して誇張した売文の悲劇に感激した。同時に平生・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・ 又 輿論の存在に価する理由は唯輿論を蹂躙する興味を与えることばかりである。 敵意 敵意は寒気と選ぶ所はない。適度に感ずる時は爽快であり、且又健康を保つ上には何びとにも絶対に必要である。 ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・と題する魚住氏の論文は、今日における我々日本の青年の思索的生活の半面――閑却されている半面を比較的明瞭に指摘した点において、注意に値するものであった。けだし我々がいちがいに自然主義という名の下に呼んできたところの思潮には、最初からしていくた・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・中には絵などが入っていて、一層の情趣を添えるのもあって、まことに書物として玩賞に値するのであります。 和本は、虫がつき易いからというけれど、この頃の洋書風のものでも、十年も書架に晒らせば、紙の色が変り、装釘の色も褪せて、しかも和本に於け・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・ しかしかかる評価とは、かく煙を吐く浅間山は雄大であるとか、すだく虫は可憐であるとかいう評価と同じく、自然的事実に対する評価であって、その責任を問う道徳的評価の名に価するであろうか。ある人格はかく意志決定するということはその人格の必然で・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ かようにして志と気魄とのある青年は、ややもすれば甘いものしか好むことを知らない娘たちに、どんな青年が真に愛するに価するかを啓蒙して、わが心にかなう愛人に育てあげるくらいの指導性を持たねばならぬ。 娘たちに求愛し、その好みにそわんと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 街頭狗肉を売るところの知的商人、いつわりの説教師たちを輩出せしめる現代ジャーナリズムに毒されたる読書青年が、かような敬虔な期待を持つことができないのは同情に値する。しかしながらジャーナリズムはまた需要にこたえるものでもある。読書子の書・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫