・・・花から取った香水や、肌色のスメツ白粉や、小指のさきほどの大きさが六ルーブルに価する紅は、集団農場の組織や、労働者の学校や、突撃隊の活動などとは、およそ相反するものだ。それをわざわざ持ちこんで行くのは意味がなければならなかった。社会主義的社会・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・脚気は戦地病であるが、一兵卒の死だって、もっとその原因を深く追求すれば、憤慨に値することに突きあたらざるを得ないのである。 けれども「一兵卒」は、明治以来の日本の文学に、初めて真面目に戦争に取材した小説を提供したものとして、歴史的にまず・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それよりは、一九三一年の満州上海事変とその後に於て、ファッショ文学が動員されている如く、既に一八九四年の最初の戦争から一貫して、文学は戦争のために動員されていることが注目に価する。そして、そのいずれの文学も下劣極る文学だったことが注目に価す・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それに価する人だ。」 十九のさちよは、うやうやしく青年のさかずきに、なみなみと酒をついだ。「じゃ出よう。これで、おわかれだ。」 その料亭のまえで、わかれた。青年はズボンに両手をつっ込み、秋風の中に淋しそうに立って二人を見送ってい・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・これは少なくとも一顧に値するだけの問題にはなると思う。 私はこれらの問題をいつかもう少し立ち入って考えてみたいと思っている。この一編はただ一つの予報のようなものに過ぎない事を断わっておきたい。・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・そういう意味ではこの映画は大いに研究に値するものかもしれない。しかしこういう行き方では決してドビュシーの音楽のようなものはできないであろう。それはやはりフランス人に待つほかはない。「七月十四日」のすぐあとでこの「人生の歌」を見たためにこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・英語やドイツ語やフランス語の風景という言葉にしても、それがわれわれのいう風景とはたしてどこまで内容的に一致するかも研究に値する。それはいずれにしても、日本のように多種多様な地質気候がわずかな距離の範囲内で錯雑した国であってこそ、はじめて風景・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・たとえば帽子の代わりにキャベツをかぶって銀座を散歩した男があるとすれば、これは確かにオリジナルな意匠としての記録に価する。しかしこのレコードは決して破られない。なんとならば、再びキャベツを用いたのでは、キャベツを用いたという質的レコードは破・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・少くとも発明という賛辞に価するだけに発明者の苦心と創造力とが現われている。即ち国民性を通過して然る後に現れ出たものである。 こういう点から見て、自分は維新前後における西洋文明の輸入には、甚だ敬服すべきものが多いように思っている。徳川幕府・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・余の行為がこの有用な新熟語に価するかどうかは、先生の見識に任せて置くつもりである。(余自身はそれほど新らしい脊髄がなくても、不便宜なしに誰にでも出来る所作 先生はまたグラッドストーンやカーライルやスペンサーの名を引用して、君の御仲間も大・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
出典:青空文庫